「10年後はないかもしれない」大友良英、60代半ばで到達したギター&ターンテーブルの自在境-前編-(3/3)
インタビュー:細田成嗣 (2023.12.26 TOKION 掲載)
前へ |
即興演奏の捉え方の変化
——坂本さんとのラジオのトークで大友さんは音遊びの会の話をされていて、「自由」について改めて考えることになったと仰っていました。大友さんと音遊びの会との出会いは2005年ですが、その時期に即興演奏に対する捉え方の変化もありましたか?
大友:あった。すごくありました。それまでは、変な言い方だけど、即興演奏は即興演奏のようにやらなければならないと思ってた。つまり従来のメロディーやハーモニー、リズムが出てしまうのはもってのほかで、要はデレク・ベイリー的な発想でやらなければならないと。けれど音遊びの会と一緒にやるようになってから、そういったことがどうでもよくなってしまったんです。かつては即興演奏といった時に、そこに即興演奏とは別のベクトルのいろんなヒストリーをどう入れていくかを考えながらやってましたが、ちょっと待てよ、と。即興演奏を中心に据える考え方がとても偏っていたと気付いたのがその時期でした。音遊びの会の子ども達と対峙する時に、そんな自分のヒストリーをメインに持ってきても始まらないですから。まずは目の前の一緒に音を出す人のことを考えようと。
坂本さんは坂本さんで、かつてやっていた即興演奏を再評価するようになっていった時期で、それとも重なって、互いに影響を受け合ったような気がします。もちろん即興演奏を即興演奏のようにやるのはおもしろいところもあるけど、それだけでどうこうという時代ではもはやないなと思うようになって、そしてそれは僕がギターを再び演奏し始めた時期ともクロスしているんです。だからギターを必ずしもノイズのように弾かなくてもいいって素直に思えたのかもしれない。チューニングしてもいいし、しなくてもいい。それは自分の中ではすごく大きな変化だったと思います。
——別の言い方をすると、即興演奏を通じて美学的に新しいことを目指すというよりは、あくまでも方法論として人と人がコミュニケーションすることを重視するようになった、ということでしょうか?
大友:そうだと思います。即興演奏って会話みたいなものだから、そこから新しいことが生まれることもあるかもしれないけど、別にそれだけが目的ではない。それに、あまりにも即興演奏に強い価値を置きすぎてしまうのはどうかとも思うようになりました。
まあ、会話と言っても、別に相手が「ポンポン」って音を出したから「カンカン」って返事をする、みたいなことでは全然ないんだけどね。構成をつけてもいいしつけなくてもいいし、共演する相手と自由にやり取りをする状態。それはターンテーブルよりもギターの方が自由にできるなと思ってました。ターンテーブルだとやっぱり応答の仕方が限られてしまうし、何よりセッティングも含め不自由だけど、ギターはもう少し身軽な感じがしました。
もちろん、どこまで行っても自分のギターでしかないから、そういう不自由さは感じてました。ただ、以前であればフリージャズ的なものをやる際にいろいろ考えたり、それこそ高柳さんのこと抜きでは演奏できなかったけど、2010年代以降はそういうこともあまり考えず、自分のやれることをやるという方向に向かったかな。その中でいろいろ自由にできるようになっていったので。
「今の状態は10年後にはないかもしれない」
——今、大友さんにとって、ギターを演奏することの楽しさはどのようなところにあると感じていますか?
大友:これは良いことなのか悪いことなのかわからないし、この言い方が正しいのかどうかもわからないけど、自分の演奏がどんどん上達している感じがしてます。それがおもしろいです。このスピード感で前は演奏できなかったものができるようになった、とか、フィードバックの中で前はできなかったことが今ならできる、とか、そういうことが年々増えている。それが音楽的に良いことなのか悪いことなのか自分では全然わからないけど、そのおもしろさの欲望には勝てない。
もう自分の身体が動くうちは徹底的にそうしたこと、スピードを上げたり、アプローチを増やしていったりってことをやろうと思っている。もちろん、きっと身体的な限界があるから、どこかまでしか行かないんだけど、とにかく今はどんどん行ける感じがする。だからこの『Solo Works 1 Guitar and Turntable』というアルバムを録ることにしたんです。コロナ禍で人前で演奏する機会が激減していたことも録音のモチベーションにはなったけど、でもやっぱり、今のこの状態が10年後にはないかもしれないし、それどころか、もしかしたら今だけのことかもしれない、という切迫感も大きかった。自分と同世代や少し上の先輩達が相次いで亡くなっているからね、ここ数年は特に。
坂本龍一さんも、高橋幸宏さんも、プロジェクトFUKUSHIMA!を一緒に立ち上げた遠藤ミチロウさんも、遠藤賢司さんも、皆、70歳前後で亡くなられているんですよ。で、自分が今64歳ということを考えると、もしかしたら本当に10年後はないかもしれない。そう思うと余計に、今まであまり出してこなかったソロの即興アルバムを出したいと強く思うようになりました。それはギターだけじゃなくて、ターンテーブルもほぼ一緒です。技術的にはギターとターンテーブルは全然違うんだけど、ターンテーブルの演奏も前より遥かに自由にできているので、その両方を今の状態のまま録っておきたいな、と。
前へ |