インタビュー「3.11後の大友良英——そうじゃないところを示す音楽への試み」【7/7】
聞き手・構成:伊藤順之介
出典:立教大学比較文明学会紀要『境界を超えて――比較文明学の現在』23(2023)
歯切れの悪い人間
─誇りって英語だとprideじゃないですか。クィア・パレードとか、公民権運動とかでも、pride っていう言葉はすごく出てくる。そういう差別が起こっているところに住んでいる人とかその当事者が、 差別を受けていると感じたときに誇りの問題が出てくるのかな、と 思います。
大友 こんなに突っ込んで誇りのことを訊かれるとそんなに上手に答えられないんだけど、でもそういうことなんだと思う。だから、 福島の人が差別されてるかどうかはわかんないけど、されてると感じてるってことだと思うんだよね。その中で、じゃあ差別やめましょうって言うことに効果があるとはとても思えないんだよ、この場合で言うと。なぜなら表立った差別があるわけでは全然ないから。 ただ構造的にずーっと続いてる問題であって。それは例えば、東北の人は東京に出ると東北訛りのまんまでいられないっていう、もう幕末以来おそらく続いてるであろう問題。 あと、例えばだけど、これ福島だけの問題じゃないね、地方の問題だけど、そこですごい成績が良い人は東京なり京都の大学に行ってそこで活動し、決して地元には戻らないってことがずっと繰り返されてるでしょ。もう100年以上。それってなんなんだろうなって。 そういう自分も優秀じゃないにもかかわらず、出たまんまだし。もちろん仕事がないっていうのもあるんだけど。そうやってずっと、落差というか、再生産され続けてるんだよね。地方と中心の問題っ て。で、自分もそれに加担してる中であの事故が起こって。だから動いてみると、自分だって加担してるじゃんっていうのがいつも出てくる。 そんな中で、それでもなんかやってくっていうのの選択で年経っちゃったかな。キレイごとじゃ全然ないんだよね。だからオレ、キレイごとの絆とか言ってるのは本当に内心ファックだと思ってる んだけど。NHKの「花は咲く」ってあるじゃない。そういうのじゃない動き方をしたいなと思ったけど。でもそれって結局すごく力 のあるものにはなってかないから。まあ弱いね。
─わたしも論文の中で「花は咲く」を取り上げていますが、歌詞の中に震災のイメージが抜けていますし、NHKという公共性の高いマスメディアが、いわば「大きな物語」として、この歌と音楽の力という言葉とをセットで流通させていったことで、覆い隠されたり忘却されたりしたものもあるのではないか、と思います。
大友 たださ、あの時期僕、被災地にすごく行ってて、いろんな集会に集まると最後に大体あれ歌うんだよ。泣きながら歌う人もいるの。オレそのことを否定はできなくてさ。大友さんも歌ってくださいって言われて、オレ音楽家だけど歌下手ですからって言って必ず逃げることにしてるんだけど。あの歌さえ歌えばみんなハッピー だって思ってること自体もう本当に嫌で。別にあの歌が悪いとか良いとかじゃないんだけども。ああいうものが本当に嫌いなんだな、 と自分はね、思う。あの音楽を作った人たちが嫌いとかってことじゃなくて、ああいう音楽の使われ方が嫌いだけどさ、こんなこと言うの野暮じゃん。それで泣いてるおばあちゃんとかさ、絆を感じて喜んでいる人たちの前で、そんなこと言えないよ。言えないからオレはなんとなくトイレ行ったりしてごまかすっていう。 だから震災のいろんな出来事は、それまでは割とクリアに好き嫌いはっきりと、オレやらないとかやるとか、もうめんどくさいアーティストでずっと普通になんの問題もなくやってこれたのに、震災のああいう現場に行ったことでオレはすごく歯切れの悪い人間に自分でもなってるなって思う。
─でも、歯切れの悪いとか、ためらうっていう感じが重要なのか な、とも思いますね。
大友 若い人は歯切れ良くていいと思うんだけど。年取るってこういうことだなって思うよ。なんかね、歯切れが悪い、オレ。アッ ハッハッハッハッハ。そうなってくんだなって思ってるよ。でも、 どっかで絶対に外したくないものがあって。それだけはやってるつもりなんだけどね。まあでもよくわかったんだ。音楽の力とかってやだって言ってる以上、力を持たないほうにどうしてもなるから。 でも、その絆と言われるような大きな流れの集団の中に入れない一 定数の人たちは必ずいて。そういう人たちの居場所がなくなる世の中だとしたら本当に最悪なので。そうじゃないところのサバイバル方法くらいは示せてるかなって思ってるけどね。
(¬¬2021年10月8日 立教大学池袋キャンパスロイドホールにて収録)
注
1) 大友良英「リスニング・ポイントの爆心地─耳を鍛えよ!」『STUDIO VOICE』 インファス、2001年7月号、Vol.307。
2) 知的障害のある人、即興演奏を行う音楽家、音楽療法士など50人超のメンバーで構成される音楽プロジェクト。2005年、当時大学院生だった沼田理衣らによって神戸を拠点に発足。
3) 西成の児童館や小学校の子どもたちによる集団即興演奏を行う音楽プロジェクト。大阪市の文化事業「ブレーカープロジェクト」の一環として2012年に発足。
4) 大友良英『学校で教えてくれない音楽』岩波書店、2014年。
5) 細田成嗣「インタビュー 大友良英 歌とノイズを行き来する、人類史のド真ん中をいく音楽」細田成嗣編著『AA 五十年後のアルバート・アイラー』カンパニー社、2021年。
6) 2011年8月15日のフェスティバルFUKUSHIMA!で行われた集団即興演奏。映 像は以下のリンクで視聴できる。「オーケストラFUKUSHIMA! – LIVE @ 世界同時多発フェスティバルFUKUSHIMA!」YouTube、2021年10月21日更新 (https://youtu.be/k8zkdLKxF5M、2022年11月21日閲覧)。
7)「クラシック音楽館─大友良英 presents 武満徹のうた」NHK、2021年8月16 日放送。
8)「大友良英のJAMJAMラジオ」KBS京都ラジオ、2021年10月2日放送。
9) 大友良英「文化の役目について─震災と福島の人災を受けて」大友良英・宇川直宏・遠藤ミチロウ・木村真三・坂本龍一・丹治博志・丹治智恵子・丹治宏大・ 森彰一郎・和合亮一『クロニクルFUKUSHIMA』青土社、2011年、27頁。
10) 和合亮一『続・和合亮一詩集』思潮社、2018年。
Beyond Boundaries: Comparative Civilizations Now 23 (Feb. 2023)
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